飼い主のいない動物たちへの愛情の証です
保護犬・保護猫がつなぐみんなの幸せ特集 2014年
ストーリー Vol.3 さくらの里山科
入居者とワンちゃん、ネコちゃんが一緒に暮らせる老人ホーム
横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。ここは全国でも珍しい、ワンちゃん・ネコちゃんと一緒に暮らせる老人ホームです。4階建ての施設のうち、2階部分はワンちゃん・ネコちゃんと一緒に暮らしたい方のみが入居できるエリア。2階は全4ユニットで、うち2ユニットが犬ユニット、残り2ユニットが猫ユニットになっています。
現在ここで暮らしているのは、ワンちゃん7頭、ネコちゃん9頭の計16頭。16頭の中には、入居者さんがご自宅から連れてきたワンちゃん、ネコちゃんのほか、動物病院で処方されるフロントラインの売上の一部を、新しい家族を探す犬や猫のために役立てる「セーブペットプロジェクト」の支援先である、動物保護団体「ちばわん」から引き取られた元保護犬・猫も含まれています。
ここを初めて訪れた人がまず驚くのは、ワンちゃんたちが本当に自由気ままに過ごしていること。共用のリビングルームはもちろん、入居者さんの居室やベッドにも24時間、自由に出入りしています。もちろん衛生面・安全面の管理徹底は必須ですが、自ら志願した犬好き・猫好きのスタッフさんが常駐しているので、これまで特に困ったこともないそうです。
この試みを発案し、実現させた施設長の若山三千彦さんは「いわゆるアニマルセラピーのように動物による治療効果を目指しているのではなく、あくまでも入居者さんとワンちゃん、ネコちゃんが普通に暮らせる環境を目指しています」と話しています。
認知症が改善！入居者の皆さんの健康状態にうれしい変化が…
しかし結果としてワンちゃん、ネコちゃんの存在は、入居者の皆さんに様々な良い変化をもたらしています。認知症が劇的に改善したり、ADL（日常生活動作）が向上したりする入居者さんが続出しているのです。例えば、認知症が進行して無表情になり、発語も少なかったAさん。飼い主をなくしてさくらの里山科に引き取られたミニチュアダックスフントのジローがAさんに懐き、Aさんの居室で暮らすようになりました。すると、Aさんはジローのことを「自分が守るべき存在だ」と認識したのでしょうか、ジローの名を呼び始めるなど発語が増え、しだいに生き生きとした表情を取り戻したのです。また、認知症で片麻痺の症状があるＢさんは、大好きなネコちゃんを一生懸命になでたりブラッシングしたりしているうちに、それが自然とリハビリになり、手の機能などADLが劇的に向上、認知症の症状も改善しつつあるそうです。「40名の入居者さん全員に多かれ少なかれ何らかの効果が見られます。小さな命と共に生きることによって、私たち人間は大きな力を与えられるのではないでしょうか」と若山さんは話しています。
全ての人が最後まで、愛するペットと暮らせる社会を目指して
そもそも若山さんがワンちゃんやネコちゃんと暮らせるユニットの開設に踏み切ったのは、老人ホームに入居する方が、それまで可愛がっていたペットを泣く泣く手放さなければならないことに疑問を感じたから。「ペットは私たちにとって大切な家族。人生の最後を愛する家族と離ればなれに暮らさなくてはいけないなんて、悲しいですよね。だから、さくらの里山科では、愛犬や愛猫と一緒に入居する方を優先して入居していただいています」と若山さん。愛犬のアミを連れて入居したCさんもその一人です。「まだ自宅で暮らしていたころ、アミが夜中に吠えるのでおかしいなと思って目を覚ましたら、家が火事で燃えていたんです。もしアミが起こしてくれなかったら、私はあのまま火事に気付かずに焼死していたかもしれない。だからアミは私の命の恩人。アミと離ればなれにならずにここに入居できて、本当によかった」とCさんは喜んでいます。「Cさんのように、施設に入居するためにペットを手放さずにすむ人が増えれば、保護犬・猫の数も減らせると思います。何より、ペットと一緒に入居すれば入居後の生活がより充実したものになりますから、人にとってもペットにとってもいいこと尽くしです。今後、さくらの里のようにペットと暮らせる施設が全国に増えて、人と動物がより幸せに暮らせる社会が実現できればうれしいですね」と若山さん。
実際、さくらの里山科には、全国の老人ホーム等から見学が相次いでいるそうです。さくらの里山科のこの画期的な取り組みが全国に広がることを、私たちセーブペットプロジェクトも願ってやみません。
