飼い主のいない動物たちへの愛情の証です
第12回 田中家と音ちゃん
「セーブペットプロジェクト(SPP)」では、動物病院で処方されるフロントライン®シリーズやネクスガード®シリーズ、メリアルのフィラリア症予防薬、犬・猫用オールインワン寄生虫ケア薬、そして犬用デンタルガム・オーラベット®の売り上げの一部を新しい家族を探す犬や猫たちのために役立てています。
この特集では、SPPの支援先である動物保護団体から保護犬、保護猫を引き取った家族のお話をご紹介しています。今回は日本の動物保護団体の先駆けでもあるアークから、音ちゃんを引き取った田中家へお伺いし、あらゆる保護犬に惜しみなく愛情を注いできたグランドマザーの陽子さんにお話を聞くことができました。
ペットロスからの再出発
都内でも外国人が多く暮らす広尾は、動物愛護活動が盛んな欧米の価値観がゆるやかに浸透しているエリアです。「先代のジュリーは山梨の田舎で飼い主から飼育放棄されていた子犬でした。隣の奥様が見かねて3頭連れて帰り、『お宅でも一頭飼ってください』と。そうやって身寄りのない犬をもらうことが当たり前だったので、これまで飼ってきた犬はすべて保護犬でした。」そう話すのは、現在72歳の陽子さんです。
17年前、犬好きの夫に先立たれてからというもの、犬は陽子さんにとって大切なパートナーとして存在してきました。音ちゃんとの出会いについて尋ねると、陽子さんは歴代犬の思い出がつまったアルバムを開きながら、こう話してくれました。「ジュリーが亡くなったのが2013年の6月でした。長年の介護の末に亡くしましたから、私自身ペットロスに陥り、ものが食べられなくなり……。見かねた娘がアークのホームページで見つけてきたのが音でした。表情や目のやさしい感じがジュリーにそっくりで、すぐにアークに電話をしたら、この子だけが東京の事務所にいたのです。何か運命を感じましてね。」
音ちゃんは、長崎の多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬でした。飼い主がオスとメスの去勢手術をしなかったため、あっという間に31頭まで増えてしまったのだそうです。割れた食器が散乱する荒れ果てた室内から地元の保護団体によって28頭が保護され、そのうち行き場のない9頭が大阪のアークに引き取られました。そして幸運にも無傷だった音ちゃんだけが東京に連れて来られていたのです。「音ちゃんは先代のジュリーより一回り小さく、私でも扱いやすい大きさでした。私のように高齢である場合、譲渡されないことが多いようですが、娘夫婦とともに面倒を見ることを条件に引き取らせていただいたのです。」
訓練士をつけて、高齢を乗り越える
“性格はおとなしい。とてもフレンドリーで人が好き。少しビビり。シャンプーは苦手。”これは、アークが新しい飼い主募集で出した音ちゃんの紹介文です。しかし、いくら音ちゃんがおだやかな犬とはいえ、新たに犬を飼うには体力や気力が必要とされます。当時68歳だった陽子さんは、狩猟犬のボルゾイの専門家である友人から助言を受けてある選択をします。それは訓練士をつけることでした。
「リード選びから、怖がらないシャンプーの仕方、適切な指示の出し方、上下関係の作り方などさまざまな知識を教えていただきました。訓練士さんに言わせると、音ちゃんは多頭飼いの環境の中で生存競争を生きてきたせいかとても意志が強いそう。何もしなければ手がつけられない子になっていたかもしれません。」と、陽子さん。こんなエピソードを聞かせてくれました。
「犬仲間とドッグカフェに行ったんですね。店主が犬用のケーキを焼いてくださって、4~5頭それぞれにボウルに入れて配っていきました。音ちゃんはいちばん最後だったので、不安な気持ちで待っていたのでしょう。他の犬は置いてもらったところで食べているのに、音ちゃんだけがガバッとボウルをくわえてテーブルの下に潜り『うーっ』と威嚇しながらケーキを一気に丸呑みしたんです。あのように豹変したのは初めてでした。また、あるときはソファにしてしまったおしっこを全部飲み干したこともありました。おそらく以前そういうことをしていたのでしょう。そう思うと、音ちゃんが不憫で……。」
陽子さんは音ちゃんの性格についてこのように話します。「音ちゃんはひどい環境で育ちながら、いつも幸せそうな顔をしており、どんなに吠えられても吠え返すことをしない犬です。何か気に入らないことがあると、テーブルの下でガリガリと爪研ぎをしますが、それをやるとすっきりした顔で出てきます。訓練士さんによると、ガリガリと出来る子は嫌なことを溜め込まないで発散できる子なのだそうです。そういう子は今までいなかったので、面白い。この子を見ていると本当に退屈しませんね。」
散歩で心を通わせ、自らも健康に
現在、陽子さんにとっての楽しみは、音ちゃんとの散歩の時間。「この辺りは坂道が多いので、私の体調がすぐれないときは『今日は平地コースでお願いします』と言うんです。すると音ちゃんは『ふーん、わかったわ!』という顔をして平地コースを行く。平地や坂道という言葉をどこかで理解したみたいです。また、お店に入るのが好きなようで、一度入ったお店の前で『今日も入る?』と振り返ります。店員さんが『かわいい』と言ってくれるのを期待しているんですね(笑)。人とコミュニケーションをとるのが好きになってきたみたいです。」
それはお薬の時間も同じようで、毎月食べるタイプの予防薬であるメリアルの犬用オールインワン寄生虫ケア薬を大喜びで食べてくれるのだとか。SPPとしても、その対象薬が陽子さんと音ちゃんの心の交流に少しでも役立っていることを知り、とても誇らしい気持ちになりました。
音ちゃんと過ごす毎日は陽子さんの健康にもうれしい変化をもたらします。「2年前に体調を崩したことがあるのですが、音ちゃんと毎日2回散歩に出かけるようになってから、血行がよくなりました。かかりつけの心臓の医師にも散歩は絶対に辞めないでと言われます。」
現在、音ちゃんは、推定7歳前後でシニア犬と呼ばれる年齢にさしかかってきました。「音ちゃんと二人で年をとっていけば、今ほどの運動量もいらなくなるかもしれません。最近の方はバギーに犬を入れて散歩しているでしょ? 私は逆だと思っていて、私がバギーに乗って音ちゃんが引っ張ってくれたらいいなと思っているんです(笑)。」
音ちゃんと二人三脚で歩む陽子さんの暮らしは、笑いあり、涙あり。シニア世代とペットのあり方に希望を感じた時間となりました。
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