飼い主のいない動物たちへの愛情の証です
第3回 田島家とチャコちゃん
犬や猫の殺処分数低減を目指すセーブペットプロジェクト(SPP)では、保護犬、保護猫と暮らすご家族のお話をシリーズでお届けしています。
今回はSPPの支援先団体であるNPO法人日本動物生命尊重の会(ALISの会)から保護犬のチャコちゃん(♀・推定2歳)を家族に迎えた田島家を訪れ、お母さまのめぐみさんと長女のあゆかさんにお話を伺いました。
あのときブルブル震えていた子が、すっかり甘えん坊に
「ずっと犬を飼いたくて。もし飼うなら保護犬と決めていました」と話すのはあゆかさん。田島家の暮らす町田市は東京都の西のはずれに位置し自然豊かな里山が点在するエリア。ペットと暮らす人が多く、保護犬の救済活動もさかんな気風があるのだとか。
犬を飼ったことはないものの、母親のめぐみさんは子どもの頃に近所の公園に捨てられている猫や犬を見かねて引取るような家庭で育ちました。「猫は放っておいてもスクスク育ちますが、犬は世話をしてあげないといけません。でも、昨年両親の介護がひと段落しましたし、犬を飼う最後のチャンスだと思って」
保護団体のALISの会とはインターネットを通じて出会ったというあゆかさん。「問い合わせると、スタッフの方がとても親身に話を聞いてくれました。こちらの好みや要望を伝えると、それならと紹介いただいたのがチャコでした。」面会は昨年の11月のこと。そのときの様子をあゆかさんはこう話します。「最初は怖がってしまって椅子の下でブルブル震えているんです。なでさせてはくれるけど、目は怯えてとても可哀想で……。」
実は、チャコちゃんは多頭飼育崩壊現場からレスキューされた犬でした。多頭飼育崩壊とは、犬や猫を無計画に集めて繁殖した結果、増えすぎて飼い主の手が回らなくなり、経済的にも破綻してしまった状況のこと。チャコちゃんは、廃屋に水も餌も与えられずに残された32頭のうちの一頭でした。栄養失調でやせこけており、腎臓にダメージがあり、フィラリアは陽性。それでもまだ若いせいか、預かりボランティアに引き取られると散歩に出られるくらい体力は回復します。しかし、何軒か里親の申し入れがあったもののトライアルがうまくいかず、出戻りを繰り返す日々。チャコちゃんが怯えるのも無理はありませんでした。
「うちに来て2ヵ月ほどは、テーブルの下や隅っこに逃げてしまうこともありました。でも今はすっかり慣れましたね」とあゆかさんは、リビングの床でお腹を出してくつろぐチャコちゃんを見て笑います。「今でも散歩中にご近所の方がなでようとするとビクッとするんです。『このコは保護犬なんですよ』と言うと、『そうだと思った。ゆっくり見てあげると1年くらいで慣れてくるわよ』とみなさんお詳しいのでそういうものかと思ったり」とめぐみさん。
保護犬に理解のある環境に恵まれて、チャコちゃんは次第に甘えん坊の性格を発揮するようになります。引き取って5ヵ月になる今では帰宅した家族に飛びついて喜んだり、撫でてほしいとアピールするほどに。「外が大好きなんですよね。臆病なのによそのわんちゃんにすごく興味があって。大勢の犬の中で暮らしていたせいかしら?」とめぐみさん。新しく日課となった朝と夕方の散歩に「もう、ヘトヘト」と笑いながら、それでもチャコちゃんが見せる仕草や表情から目が離せないのだと話します。「この子は何をしても従順。吠えないし噛まないし、そもそも怒らない。とてもお利口な子です。」
新しい家族を迎えてみんなの気持ちがひとつになった
一見健康そうに見えても腎臓が悪く、フィラリア症陽性であるチャコちゃん。病気であることをどう受けとめているのか尋ねてみると、あゆかさんはこう話してくれました。「健康面で多少の心配はありますが今はフィラリア症も治すことができるそうですし、そこはあまり気にしていません。面倒を見るのは飼い主の責任なので、きちんと世話をして、この子がまず幸せになってくれれば。」
現在は食べるタイプのフィラリア予防薬をひと月に1回飲ませているほか、爪切りなどのケアのため2ヶ月に1度は近所の動物病院に連れて行くのだとか。そろそろシーズンを迎えるノミ・マダニ対策についても、「ちょうど来週、狂犬病の予防接種があるので先生に聞いてみようと思っています」とめぐみさん。チャコちゃんは左足が脱臼気味で階段の昇降だけ抱っこしなければいけませんが、それ以外はさほど支障なく生活を送れているようです。
チャコちゃんが来てからというもの、田島家はちょっぴり忙しくなりました。毎日朝夕の散歩に食事、身体のケア。「でもそれ以上にチャコの喜ぶ顔が見たいから」とあゆかさんが言うと、「あんなに喜ぶのなら期待に応えなきゃって思いますでしょ」とめぐみさんは笑います。
最後に、今の田島家にとってチャコちゃんがどのような存在か尋ねてみました。「人それぞれで、父は孫だと言うし、母は三女。妹は友達。私は子どものように可愛がっているから、子どもかな」とあゆかさんが言うと、めぐみさんもこう続けます。「いちばん変わったのは主人ね。『犬なんか面倒見ない』って言ってた人なのに来た日からすごくよく面倒を見てくれるんです。ブラッシングも何度もしてくれるので助かっています(笑)」と嬉しそう。どうやら変わったのはチャコちゃんだけではないようです。
新しい家族を迎えてみんなの気持ちもひとつに。チャコちゃんはもう保護犬ではなく田島家の大切な家族の一員です。