飼い主のいない動物たちへの愛情の証です
Vol.5 石川ドッグレスキュー(下)
取材対象
石川ドッグレスキュー
代表 池田裕美子さん
意見の対立、スタッフのケガ…。
活動の限界に直面
資金や仲間が増えて、保健所から引き出せる犬の数も増えましたが、引き取る犬が増えれば増えるほど、当然、必要なコストやスタッフも増えていきました。「犬を助けたい一心で、どんどん保健所から引き出してくるので、家はいつも40頭ぐらいの犬でギュウギュウ詰め。世話も資金の工面も大変で毎日がぎりぎりの状態で、私を含めスタッフはみんな疲弊していました。スタッフは『このまま頑張って1頭でも多く引き出そう』という意見と『もう少し頭数を減らして、余裕をもって活動をした方がいい』という意見で対立するようになり、会の中に派閥ができてしまいました。もちろん私も『このままではもたない』とは思っていましたが、どうすればいいのかわからず悩む日々が続きました」と池田さん。そんなある日、悲しい事件が起こります。スタッフの一人が犬にかまれ、大けがをしてしまったのです。この事件を機に、池田さんは体制の刷新を決意。石川県に「このままでは活動を継続できない。協力してほしい」と直談判しました。おりしも、環境省が中心になって、全国的に犬や猫の殺処分数を減らそうという取り組みが行われ始めた時期だったこともあり、石川県は協力を快諾。これまで池田さんら石川ドッグレスキューに任せっきりだった譲渡活動にも、県として主体的に取り組んでくれることになりました。「子犬や健康な犬など比較的譲渡されやすい犬は県が、老犬や持病のある犬など譲渡が難しそうな犬は私たちの会で引き取り、それぞれ里親を募集するという体制にしたのです。おかげで私たちの活動も落ち着きを取り戻し、以前よりは余裕をもって活動に取り組むことができるようになりました」。
SPPの支援が病気の犬たちの治療費に
とはいえ、老犬や病気の犬の譲渡はそう簡単なことではありません。特に病気の犬の場合、医療費がかさむことが目に見えているため、引き取りを躊躇する方も多いのです。もちろん同会では、引き取ったすべての犬に基本的な健康管理を実施しています。「ワクチン接種と犬フィラリア予防、そしてノミ・マダニ対策は必須です。特にノミ・マダニは放置しておくと他の犬たちにうつってしまうので、毎月欠かせません。最近は経口タイプのネクスガードを使用していますが、とても便利でスタッフの間でも好評ですし、犬たちも喜んで食べてくれます。特にダイエット中の犬には、よいご褒美になっているようです」とのこと。「ただ、すべての犬に必要な健康管理を施すためには、それなりの費用が必要です。特定の犬にだけ多額の治療費をかけてしまうと、他の犬のための健康管理費やフード代などが不足してしまう可能性も。池田さんは、ある犬の手術をするかどうか迷っているときに、スタッフから「1頭分の手術費で10頭の命が助けられるのに」とくぎを刺されたこともあるそうです。「でも、SPPの医療費支援を受けるようになってからは、手術など高額の費用がかかる治療も躊躇なく受けさせてあげられるようになりました。SPPの支援は初めから『医療費』に限定されているので、会の経費とはいわば別会計。他の犬たちの心配をせずに使うことができます」と池田さん。
新しい家族との出会いを待つメルちゃん
この日、バザーの会場で新しい家族との出会いを待っていたメルちゃん(推定年齢13歳前後)も、SPPの支援で医療を受けた犬の1頭です。メルちゃんは文字通りボロボロの状態で保健所の前に捨てられていた5頭のトイプードルのうちの1頭。5頭とも悪質なブリーダーのもとで繁殖用に使われていたらしく、保護されたとき、健康状態は最悪でした。何度も出産と授乳を繰り返していたらしく被毛の状態も悪く、歯は全て抜け落ち、すべての乳房に腫瘍ができていました。「通常なら、医療費のことを考えて泣く泣く引き取りをあきらめるところでしたが、SPPの支援で医療を受けさせることができるので、5頭とも引き取り、できるかぎりのことをしてあげることができました」。病気の完治にはいたっていないものの、投薬を続ければ日常生活を送れるまでに回復したメルちゃん。ほかの4頭も順次譲渡会などで新しい家族を募ることにしているそうです。池田さんは「すべての犬を助けたい…という子どものころの夢は、残念ながらまだ叶っていませんが、皆さんのサポートで少しずつ会の活動も軌道に乗ってきました。なにより、メルたちのようにこれまで諦めていた犬を助けられるようになったことが嬉しいです。これからも1頭でも多くの犬の命を助けられるよう、活動を続けていきたいと思います」と話しています。池田さんらのケアの甲斐あって元気を取り戻し、今では若々しい目の輝きも戻ってきたメルちゃん。1日も早く、新しい家族と出会えますように!SPPも応援しています。