Vol.1 ペット防災の基本
多くの貴重な命を奪い、各地に甚大な被害をもたらした東日本大震災から、5年。震災で得た教訓を風化させないために、そして大切なペットの命を守るために、今、私たちには何ができるのでしょうか?
ここではドッグトレーナーの萩原美樹さんに、ペットを守るための災害対策について教えていただきます。第1回目のテーマは「ペット防災の基本」です。
災害発生時に慌てず、確実にペットの安全を守るためには、平常時の準備が欠かせません。
平常時の準備は大きく分けて
(1)防災グッズの準備
(2)トレーニング
(3)シミュレーション
の3つです。
どれも難しいことではありませんので、「そのうちに…」と先延ばしにせず、できることから速やかに取り組んでいきましょう。
(1)防災グッズの準備
食料や薬などペットの生命を維持するために必要なものからケア用品、ペットの身元がわかるものまで、被災生活に必要なものは意外と多岐にわたります。被災時にサッと持ち出せるよう、ひとまとめに保管しておくことが大切です。
1.ペットの命を守るもの(食料・水・薬など)
食料と水はペットの命と健康を維持するために絶対に必要なものです。支援物資などが届くまでの間持ちこたえられるよう、最低でも5日分は準備しておきましょう。常用薬がある場合もやはり最低5日分は用意しておくと安心です。また万が一被災時にけがを負ってしまった場合を想定して、ペット用救急箱の準備も忘れずに。
チェックリスト
- フード
(普段食べ慣れているもの。賞味期限切れに要注意) - 水
- 常用薬
- ペット救急箱
2.ペットの身元がわかるもの
東日本大震災ではペットが飼い主とはぐれてしまい、そのまま行方不明になってしまったケースも多く報告されています。ペットは言葉を話せません。マイクロチップや鑑札を装着するなど、飼い主と離れ離れになってしまった際に連絡先がわかる工夫をしておきましょう。またワクチン等の接種歴を証明する書類も防災グッズに加えておくと、万が一避難所等で共同生活を送ることになった場合に役立ちます。
チェックリスト
- マイクロチップ
- 鑑札
(外れる可能性があるので、マイクロチップのほうがベター) - 多価ワクチン・狂犬病ワクチン接種証明書のコピー
- ペットの写真と連絡先を書いたメモ
(行方不明になったペットを探す際などに役立ちます)
マイクロチップ
鑑札
3.日用品
避難時にペットの安全を守るために必要なもの、避難先での生活が長引いた場合に必要なものを揃えて、すぐに持ち出せるようにまとめておきましょう。
チェックリスト
- 予備の首輪・リード・ロングリード
(万が一切れたりなくしたりした場合のために) - 食器、お湯が沸かせる程度の手鍋
- トイレグッズ
(シーツ、フン持ち帰り用のビニール袋、フンのニオイを漏らさないためのマナーポーチなど) - 防寒グッズ(ウェア、毛布、タオル、カイロ、アルミシートなど)
- 防暑グッズ(保冷剤、冷却シートなど)
- 水のいらないシャンプー
- 虫よけスプレー・シール
- 犬の靴(被災時にがれきの上などを歩かねばならない際に役立ちます。中型犬以上は必須)
- ライフジャケット
(2)トレーニング
1.基礎トレーニング
犬の場合、「おすわり」「まて」「ふせ」など、基本的なトレーニングは必ず済ませておきましょう。避難先で共同生活を送る際などに、周囲の人に迷惑をかけないための最低限のマナーでもあります。
2.ハウストレーニング
ハウス(クレートやケージ、キャリーケース)の中で過ごすことに慣れさせておきましょう。災害発生時にペットをクレートやキャリーごと運ぶことができれば、がれきの上などを歩かせずにすみ、安全に避難できます。また中に入ったまま食事や睡眠をとれるようにしておくと、避難先で役立ちます。
3.ドッグホイッスル トレーニング
加齢等で視力が衰えてしまった犬には、聴力を活かす「ドッグホイッスル トレーニング」が効果的です。ドッグホイッスルの音を使って「おいで」「まて」などの基本的な動作を覚えさせておくとよいでしょう。
(3)飼い主さん自身の準備
ペットだけでなく飼い主自身も、災害発生時に起こり得る事態をシミュレーションしてトレーニングや準備をしておくと安心です。
1.応急処置 シミュレーション
- 擦り傷
傷口をきれいな水で洗浄。出血している場合は、患部を包帯(なければ布など)で覆います。 - 骨折
可能な場合は骨折したヵ所に添え木を巻きつけ、体全体をタオルで覆います。ただし、きつく巻き過ぎると患部を圧迫してしまう可能性があるので注意してください。ペットによっては痛みのあまりパニックを起こし、攻撃的な行動に出るケースもあるので、動物の状態をよく見ながら処置に当たることが大切です。 - やけど
患部を冷水などで冷やします。ガーゼ等を当てる場合は乾いたものは患部にくっついてしまうのでNG、必ず水で濡らしたものを使ってください。
2.搬送シミュレーション
災害時にペットがケガをしたり体調不良を起こしたりしてしまった場合を想定して、病院や安全な場所への搬送をシミュレーションしておきましょう。可能であれば抱っこやキャリーで運ぶのが基本ですが、無理な場合は大きめのタオルや毛布などの上に寝かせて四隅を持ち、担架のようにして運びます。
いずれの場合も、搬送前に病院に一報をいれておくことを忘れずに。
3.避難シミュレーション
「動物愛護管理法」の「災害時におけるペットの救護対策ガイドラインの概要」では「災害時は原則として、飼い主とペットは同行避難を行う」と明記し、自治体に対して避難所や仮設住宅へのペットの受け入れの配慮を求めています。
飼い主の皆さんはスムーズに同行避難ができるよう、事前に近所の防災公園の場所やそこまでの最短ルートを確認しておきましょう。万が一のときに迷わないように、普段から散歩コースの1つにしておくなどして、歩き慣れておくと安心です。
また、避難所では不特定多数の人やペットと共同生活を送ることになりますので、日ごろから人やほかの動物に慣れさせておくことが大切です。
災害時におけるペットの救護対策ガイドライン
(環境省)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506.html
次回は、震災後のペットケアについてお伝えします。
ドッグトレーナープロフィール
Dog index MIKI(萩原 美樹)
イヌとカナダに渡加したことにより、イヌとのよりよい関係に気付く。 カナダのドッグトレーナー養成学校卒業。 帰国後、2007年 Dog index設立 「おやつ」や「もの」に頼らない人とイヌとの関係性に重視。